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遺産分割協議後の相続放棄 | 法友全期会|若手弁護士の「部」を越えた連合体

法律・事例解説EXPLANATION

相続の事例

遺産分割協議後の相続放棄

公開日:2016年07月21日(木)

私の父は、5年前に亡くなりましたが、父の遺産は、すべて姉が相続するという遺産分割協議が成立し、私は、父の遺産を一切相続しておりませんでした。ところが、先日、父に対してお金を貸していたという人から、私にその返済を督促する連絡がありました。私は、遺産の分割を受けていないどころか、父が亡くなった当時、父に借金があるなどとは全く知りませんでした。私は、借金を代わりに返済しなければならないのでしょうか。

債務の相続

民法には、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(896条本文)と規定されています。これは、不動産などのプラスの財産だけでなく、マイナスの財産、すなわち、借金などの債務も承継することを意味します。また、借入金のような債務は、遺産分割をするまでもなく、相続開始と同時に各相続人に法定相続分に応じて帰属します(大判昭5.12.4民集9.12.1118頁)。したがって、あなたは、債権者に対して、「姉が全て相続したのだから、自分は債務を一切負担していない。」と主張することはできません。

遺産分割協議と法定単純承認

そのため、自分は債務を負担していないと、債権者に主張するためには、相続放棄の申述を家庭裁判所にする必要があります。本来、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について承認をするか、相続の放棄をしなければなりません(民法915条)。ところが、遺産分割協議を行うと、相続人は、単純承認をしたものとみなされ(民法921条1号)、「無限に被相続人の権利義務を承継する」(同法920条)とされています。したがって、原則として、遺産分割協議を経た後に相続放棄をすることは許されません。

熟慮期間の始期

上述のように、相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行わなければなりません。これを熟慮期間といいます。通常、熟慮期間は、相続開始の原因である事実を知った時、つまり、被相続人の死亡の事実を知った時からスタートします。しかしながら、今回のように、被相続人に債務が全く存在しないと信じ、かつ、相続財産が、プラスもマイナスも含めてどれくらいあるか等の調査をすることが困難であったため、そのように信じることに相当な理由がある場合には、債務の存在を知った時からスタートする可能性があります(最判昭59.4.27判タ528号81頁)。

準備すべきもの

以上のように、あなたが、お父様の債務の存在を全く知らず、知らないことについてやむを得ない事情がある場合には、債権者からの連絡によって債務が存在することを知った日から3か月以内に、上記事情を裏付ける資料とともに家庭裁判所に相続放棄の申述を行って下さい。その際、申述の理由として、上記事情を述べるとともに、遺産分割協議は錯誤によって無効であること、債務の存在を知った時から3か月以内であることを明確に記載するようにしましょう。

家庭裁判所に提出する書類は、以下のとおりです。

  • 相続放棄申述書
  • 申述の理由書(被相続人の債務の存在を全く知らず、知らないことについてやむを得ない事情を記載したもの-これを疎明する資料も含む-)
  • 申述人の戸籍謄本(3か月以内に発行されたもの)
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 遺産分割協議書
  • 債権者からの通知書(日付がわかるもの)※その他、各裁判所の定めるところにより、必要な資料の提出を求められる場合があります(家事事件手続規則37条3号)。

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